a Doller Auction

これは世の中に良くありふれている、 でも大半の人はそれと気が付いていない、 理不尽な競争をモデル化したものである。


まず、オークションの胴元は1ドル札を1枚準備する。 そして参加者を複数人数、用意する。 これらの参加者は結託することはない、とする。

この1ドル札を競り落とすのが参加者のやることである。 もちろん、最も高額を提示した人がこの1ドル札を競り落とせる。

通常の競りと違うのは、
「競り落とした人以外も、自分が提示した金額を払わなくてはいけない」
という点である。 つまり「3セント」と言った段階で3セントの出費は確定する。


この「競り」の何が理不尽なのか、理解するには、 実際に競りを実行してみるのが一番だろう。 話を簡単にするために参加者は二人とし、A,B と言う名前とする。

当然、最初は 1セントから始まる。 とりあえず A が Call したとしよう。

ここで、B が降りなかったとすると B は 2セント以上を Call するでしょう。

とりあえず、「1ドル」を獲得するために、勝負を続けたとすると、 両者合わせて1ドルに達した段階で「胴元」の敗けはなくなります。 ここで第一の壁が突破されました。 この段階で、A,B は共謀する意味がなくなります。 つまり共謀していたならば、 ここまででどちらかが降りなくてはいけないわけ。

共謀はなかったとするのでこのまま競りが続いたとしましょう。


この調子で続けると当然、 どちらかが 99セントのコールをする瞬間に到達します。 別に本当は 99 セントでなくても良いのだが。 仮に B が 99 セントをコールしたとしましょう。 実はここに第2の壁があります。

さて、この瞬間、A は2つの戦略があり得ます。 降りるか、「1ドル」をコールするかです。 B が 99 セントをコールしたと言う事は、A は 98 セント以下の 金額をコールした、と言う事です。 ここで勝負を捨てると A はこの金額を丸々失わなくてはいけません。 しかし、「1ドル」をコールするならば、 損失は 0 です。 儲けはありませんが、損もしないのです。 従って、局所的に見るならばここは 1ドルをコールするべきと言う事になります。

ここで、A が 1ドルをコールしたとしましょう。

問題は B の行動です。 B は 99 セントを失うか、 1ドル1セント(あるいはそれ以上)をコールするか、 どちらかを迫られることになります。 1ドル1セントをコールした場合、1ドルを得れば損失は1セントで済みます。 つまり「被害が小さいのは」コールを続けた方なのです。 このため、こうなると B はコールを続けるしかありません。

あとは話は簡単です。 この壁を突破した瞬間に、 「被害を最小限に食い止める」 ためにはコールを続けるしかない、 という状態が発生します。

双方とも損失が出るのに、 もはや競争を止めることはできなくなるわけです。


この異常な状態は何処で発生したのでしょうか?

第2の壁は参加者に勝者が無いことを確定づける瞬間です。 一方第1の壁は、 胴元が勝者になったことを確定づける瞬間です。 ですので、第1の壁を突破したときが確定の瞬間であるかのように 見えます。

でも実際には、第1の壁を突破するまえに止めると確定するのは、 「胴元の敗北」であって、参加者の勝利ではありません。

実は、参加者の敗北は 「A が 1セントでコールし、B がそれに応じた瞬間」 に決定しています。 共謀がない場合、第1の壁と第2の壁は実は本質的に同じ存在で、 『その壁を突破する人』にとって、
つねに「壁を突破した方が局所解として損失が小さい」
という性質に違いはありません。 従って、共謀がない場合はこの2つの壁は共に、 あっさりと突破されてしまいます。

唯一、参加者が勝てる条件というのは、
「最初に A が99セントでコールし、B が参加しない」
場合だけです。


この a Doller Auction は異常な状態なのでしょうか? そうかもしれませんが、以外と身の回りに溢れています。

例えば…「賞金100万円」をかけた… ゴルフのトーナメントを考えてみてください。 大抵の場合、この様なトーナメントはそのゴルフメーカー自体が主催、 あるいはメインスポンサーであることが多いでしょう。

なぜならば、参加者はこのトーナメントで勝つために、 「ゴルフセット」を買い、さらに訓練用のグッズをも買うからです。 彼らは「トーナメントに参加する段階で、 自分が妥当と思える限りの金額をゴルフに注ぎ込んで」 トーナメントに参加します。 その金額は、別にトーナメントに敗北したら返してもらえるものではありません。

300人の参加者がいるとしたら、一人平均3334円の収益が上がれば、 「ゴルフメーカー」は「第一の壁」を突破できたことになります。 第2の壁である100万円を突破してしまうと、 競争熱は一気に冷めてしまうでしょうから、 この価格は比較的突破しにくい金額に設定してあると良いでしょう。

あとは、定期的にトーナメントを開催し、 トーナメント参加をする度に一定の消費財(ボールとか)を消耗するように 設定してやれば、 胴元は収益が保証されることになります。


実はこの勝負。胴元がいなくても成立します。 冷戦時代の核戦略などがその端的な例で、 相手よりも多くの核を保有しないと「勝負に勝てない」 状態はまさに a Doller Auction となんら変わるものはありません。

このように、この a Doller Auction 問題は 以外と身の回りにゴロゴロしているんです。 最大の問題は、これに対する絶対解がないと言うところで…。